[本] 葬送

2009/05/06(水) 23:22:40 | カテゴリ:
平野啓一郎「葬送」(新潮文庫)読了。

1846年11月、フランス・パリ。
音楽家のフレデリック・ショパンは、愛人ジョルジュ・サンドの家族を避暑地・ノアンに置いたまま、一人パリへの帰路についていた。この頃、サンド夫人の子供の問題に起因した諍いのため、ショパンとサンド夫人の間には暗雲が垂れ込めていた。子供に対するサンド夫人の態度、それを不満とするサンド夫人の娘・ソランジュの訴え、そして、ショパンをもう一人の子供のように扱うサンド夫人の接し方。それが、彼の繊細な心に重く圧し掛かっていた悩みの種であった。
一方、ショパンの友人である画家のウージェーヌ・ドラクロワは、自ら手がけている下院図書室の天井画を見ながら、芸術について思いを馳せていた。


芥川賞受賞作家による、ヨーロッパ版時代小説。
作者の作風から一般的には純文学に分類分けされるところだろうけれど、これは時代小説だと思う。

直木賞以上に興味のない芥川賞作家の作品を読む気になったったのは、Xbox360/PS3のRPG「トラスティベル~ショパンの夢~」の影響でクラシック音楽とショパンという人物に興味を持ったため。
ゲームプレイ後、ショパンに関する情報を仕入れているためにWikipedia等を渡り歩いていた際に、「トラスティベル」ファンサイトで密かに広まっていた本作の存在を知り、なんとなく気になって手にとってみたのがキッカケです。

そんなわけで、”トラスティベル”フィルタが強力にかかってる状態で読み始めたのですが、そのせいか久しぶりにすごい勢いで読み切りました。
遅読が常で1ヶ月1冊ですらやっとの自分が、半月で文庫4冊分読破なんて、どうした俺。ショパンマジック発動かΣ

話の内容は、1846年冬~1849年末までのショパンとドラクロワ、およびその周辺人物とフランス社会を描いたもの。
クラシック音楽好き、もしくは「トラスティベル」プレイ済みならば、この西暦でピンと来るかもしれませんが、晩年のショパンが物語の中心軸です。
# 晩年と言っても30代ですが。

事件やイベントはある程度史実に則って書かれているのだろうけれど、登場人物たちの心情の大部分は作者による創作だと思われます。
だから、本作に描かれているもの全てを実話として受け止めるのは危険かと。
しかし、そんなことは頭で解っていても、登場人物たちに感情移入せざるを得なかったです。
特にショパン。
この作品で描かれてる彼は、病弱で、内向的で、繊細過ぎるほど繊細で、他人を気遣い過ぎるあまり言葉による自己表現が下手で、それでいてユーモアセンスも併せ持ち、とにかく誰からも愛される天才。
そんな彼が、ジョルジュ・サンドの子供の問題に心を痛めつつも、徐々に居場所を失っていく過程があまりに切ない。
また、失意の果てにロンドン行きを決行するも、多忙のため衰弱していく姿も痛々しい。
それに、下世話な一般市民によって彼もしくは彼の存在が振り回されるのも、なんだかひどく哀しい。
それでもなお、自らの義務であるかのようにひたむきに音楽やピアノと向き合って、最期まで健気に懸命に生きようとする彼の姿には、心を打つものがありました。

ところどころで、当時のパリの政治状況やショパンの交友関係が、知っていて当然と言わんばかりにさらりと出てくるので、多少の前知識が必要かもしれない。
ポーランド分割とワルシャワの11月蜂起、フランスの七月王政と二月革命、あとショパンとリストのピアノの弾き方の違いぐらいはさらっと知っていた方が楽しめるかも。

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